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ある国際コンクール伴奏者の雑感(2006年執筆)

私は音大でコレペティシオーンという科を担当している為、しばしば弦楽器などのコンクールの伴奏を頼まれます。この仕事は短期間に色んなレパートリーをこなさないといけない、責任が重い、など大変なわりには、特別ギャラがいいわけでもなくて、美味い仕事とはいい難いのですが、反面、優秀な若手音楽家を直接体験できる、という何物にも替え難い面白味があるので、頼まれればいつも喜んでひきうけています。

ライプチヒでは毎年のように、あるアメリカのコンクールのヨーロッパ予選が行われ、私はいつもこれにかかわっています。このコンクールはピアノ、弦楽器、管楽器、歌、とあらゆる分野で参加が可能であり、全部の中から数名を選出する、というもので、各分野からそれぞれ何名づつ合格、と決まっているわけではありません。ピアニストが同業者のみならず、ヴァイオリン二ストや歌手とも競い合うわけです。参加資格は音楽大学教授もしくは有名な音楽家の推薦状2通、という簡単さですから、その気になれば音大生なら誰でも参加できます。こういう変ったコンクールではありますが、馬鹿にしてはいけない。結構長い歴史があり、名のある音楽家をぞくぞく世に送り出している、とパンフレット上では謳われています。

参加者を観察したところ、大体2種類に分けられ、「こういう参加資格だったら自分も出られるから、試してみよう」という第一グループと、「通常のコンクールではもう入賞しているが、更なる国際的飛躍を試みたい」という第二グループ。当然のことながら、前者と後者では演奏技量が平均的に大きく異なっているので、このコンクールは参加者の質のばらつきが非常に大きいわけです。

さて、こういった種々様々のエントリーの中から、どのようにして数人を選び出すのでしょうか。まず、一次予選では、全員がそれぞれの持ち曲(4-5曲)の一部、審査員に指定された楽章などを15分ばかり演奏します。そして100人近くの参加者の中からたったの10人ほどを選出します。その際、第一グループに属する人はまず殆どが落選し、第二グループからも多くが落選するわけで、この競争は非常に難しい。そして続く本選会では、選ばれた10名が,一次では演奏しなかった部分を演奏して、そのうち数名が目出度くヨーロッパ代表として選ばれるのです。

私は伴奏者であって審査員ではないので、どのようにして人選を行うのか、厳密には存じません。でも、自分の伴奏した人が合格したり、非常に優秀なのに落ちてしまったりすることから、ある程度の推察はつきます。長年の経験によると、選ばれる人にはある共通点があります。それは、「見た目がいい事」です。こんなことを言うと、「そんな馬鹿な、外見で選ぶなんて事はあり得ない。音楽性と技術が全てだ」と抗議する方がでてくるでしょう。しかし実際上、技術的にも音楽的にも文句のつけようのないピアニストとヴァイオリン二ストがいたとして、どちらを選ぶか、と言われれば、とても音楽だけでは決めようがありません。その時にものを言うのが、外見です。若手音楽家らしい魅力にあふれていて、演奏中に外見でも観客を魅了できること、これはクラシック、ポップにかかわらずスターになるには極めて大事な要素です。コンクールというのは、おおむねスターを生み出す目的を持っているのですから、参加しようと思う人は、「何が何でも上手ければいいのだ」とがむしゃらに練習するだけでなく、一度は自分の舞台に出たときの姿、演奏中の姿、などのチェックをすることをお薦めします。大演奏家たるにふさわしい雰囲気がただよっているでしょうか。

2006年執筆

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